ハウツー・現場実践

【工場・プラント防爆最前線 #3】危険区域評価の計算ロジック - 放出率・換気度・危険距離をどう求めるか

経産省ガイドラインが定める危険区域評価の7ステップを実務者目線で解説する。放出等級の考え方、開口部面積と放出率の推計、換気度・換気有効度の評価、危険区域の判定表と危険距離チャートの読み方まで、何を入力すると何が出てくるのかを計算事例とともに読み解く。

2026年8月2日20分で読める
【工場・プラント防爆最前線 #3】危険区域評価の計算ロジック - 放出率・換気度・危険距離をどう求めるか

前回の記事では、防爆エリア精緻化を支える4つのガイドライン・解説書の構造と、目的設定から官庁申請に至る「電子機器利活用ジャーニー」の6ステップを論じた。その中で、技術的中核を成すのが③危険区域評価——すなわち放出源ごとの定量計算である。

本記事では前回の予告どおり、危険区域評価の計算方法を掘り下げる。経済産業省「プラント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン」[1]が定める7つの計算ステップに沿って、放出源の特定と放出等級、放出率の推計、換気度・換気有効度の評価、そして危険区域タイプの決定と危険距離の推計まで、「何を入力すると何が出てくるのか」を実務者の目線で読み解く。数式の導出ではなく、計算の構造と入力値の意味の理解に主眼を置く。

なお、産総研Excelツールの操作や入力値選定の実務、そして検討開始から官庁申請に至る進め方は次回詳しく扱う。今回はその前提となる計算ロジック編である。


1. 危険区域評価の全体像 - 7ステップで放出源ごとに判定する

1-1. 計算フローの7ステップ

経産省ガイドラインは、危険度区域の分類のためのリスク評価フローを次の7ステップで定めている[1]。前回の記事で「開口部推計→放出率推計→換気度同定→危険エリア区分→危険距離推計」と要約したプロセスの正式な内訳である。

  • ①開口部面積の評価: 放出源となり得る開口部(フランジのガスケット隙間等)の面積を推奨値の表から設定する
  • ②放出特性と放出率の計算: 開口部からの可燃性ガス・蒸気の放出率(kg/s)を計算し、放出特性(m3/s)に換算する
  • ③換気速度の評価: 放出源周辺で期待できる風速(m/s)を指標の表または実測から設定する
  • ④換気度の判定: 放出特性と換気速度をチャートに当てはめ、高換気・中換気・低換気の3段階で判定する
  • ⑤換気有効度の判定: 換気の信頼性を「良・可・弱」の3段階で判定する
  • ⑥危険度区域の判定: 放出等級・換気度・換気有効度の組合せを判定表に当てはめ、非危険区域・ゾーン2等の区分を決定する
  • ⑦危険距離の評価: ゾーン2と判定された場合のみ、放出源からの危険距離(m)をチャートで推計する

重要なのは、この評価がエリア一律ではなく放出源(開口部)単位で行われる点である。プラント内の対象系統に存在するフランジ、バルブ、ポンプといった開口部を一つひとつ類型化して列挙し、それぞれについて7ステップを回す。危険区域は「面」として一律に決まるのではなく、「点」としての放出源評価の集合として再構成される。建設時に区画全体をゾーン2とした従来運用との最大の違いがここにある。

1-2. 評価対象は第2等級放出源に限られる

このフローの適用範囲には明確な限定がある。ガイドラインが対象とするのは、現在ゾーン2として設定されている第2等級放出源の周辺のみである[1]。放出等級(grades of release)とは、爆発性雰囲気の生成頻度による放出源の分類であり、以下の3種類が定義されている。

放出等級

定義

通常導かれる区分

連続等級

連続的、高頻度又は長期にわたる放出(タンク内液面上部等)

ゾーン0

第1等級

通常運転中に周期的又はときどき発生する放出

ゾーン1

第2等級

通常運転中には発生せず、発生しても低頻度・短時間の放出

ゾーン2

第2等級放出源の典型例は、通常運転中には可燃性物質を放出しないと予測できる「配管のフランジ部」「ポンプ・コンプレッサー・バルブのシール部」「サンプル抽出部」「放出弁・ベント等の開口部」である[1]。定量的な目安として、労働安全衛生総合研究所の技術指針(TR-No.44)は第2等級の放出時間を年間10時間未満と示している[5][6]。なお、ポンプ・配管・容器など全溶接構造のものは放出源とみなさない[5]

ここでいう「通常運転」とは機器が設計仕様の範囲内で稼動している状態を指し、浸出する程度の軽微な漏れは通常運転の一部とみなす。一方、ガスケットの破損等による漏えいは、通常運転の一部でも破局的事故でもない「緊急の修理・停止を伴う故障」として扱われる[1]。現在の設定において第1等級以上(第1等級・連続等級)と評価される放出源はガイドラインの対象外であり[2]、この場合は精緻化の土俵に乗らない。

1-3. IEC Edition 2.0のチャート方式 - ガイドラインの技術的根拠

7ステップの計算体系は、国際規格IEC 60079-10-1:2015(Edition 2.0)[3]に依拠している。ガイドラインの主要な図表——開口部面積の推奨値(IEC Table B.1)、換気速度の指標(Table C.1)、換気度チャート(Figure C.1)、危険距離チャート(Figure D.1)——は、いずれも同規格の翻訳である[1]

Edition 2.0の特徴は、放出率の計算式と2枚のチャート(換気度・危険距離)を組み合わせたチャート方式の定量評価体系を導入した点にある。ガイドラインが「換気度」と呼ぶ概念は、IEC原文ではdegree of dilution(希釈度: 高希釈・中希釈・低希釈)に相当し、放出された可燃性ガスを換気によってどこまで薄められるかを表す尺度である。同様に「換気有効度」はavailability of ventilation(換気の利用率)の訳語であり、換気が途切れず存在し続けるかという信頼性の概念である。用語は国内規格JIS C 60079-10:2008の体系に合わせつつ、計算の中身はEdition 2.0を採用したのが日本のガイドラインの構成といえる。

なお、IEC 60079-10-1は2020年12月にEdition 3.0[4]へ改定されたが、現行の国内ガイドラインはEdition 2.0準拠を維持している。実務はガイドラインに沿えば足りるが、規格改定の動向は把握しておきたい。


2. 放出率の推計 - 「どれだけ漏れるか」を定量化する

2-1. 開口部面積は表から選ぶ - 0.025mm2から5mm2まで

計算の出発点は開口部面積Sの設定である。放出率は開口部面積にほぼ比例するため、このパラメータの選定が結果を大きく左右する。従来はこの値の一般的な指標が存在せず設定が困難だったが、IEC 60079-10-1:2015はシーリングエレメント(ガスや蒸気の流出入を制限する部品)の形式ごとに推奨値を示した[1]。代表的な値は以下の通りである。

放出源の類型

開口部面積S(放出開口部が拡大しない条件)

圧縮繊維ガスケットを備えたフランジ

0.025〜0.25 mm2

らせん型(うず巻形)ガスケットを備えたフランジ

0.025 mm2

リング型ジョイント接続

0.1 mm2

小口径接続部(50mm以下)

0.025〜0.1 mm2

バルブステムパッキン(低速作動)

0.25 mm2

ポンプ及びコンプレッサー(高速作動)

1〜5 mm2(拡大可能条件)

表の横方向には「漏れの考察」として3つの列——放出開口部が「拡大しない条件」「拡大可能な条件(エロージョン等)」「深刻な程度まで拡大する可能性(噴出・破裂)」——が並ぶ。右の列ほど深刻な状態を想定した大きい値となるが、「噴出・破裂」は運転停止に至る重大事故の想定であり、日常のパトロールや常設ガス検知器により深刻な事故の前に漏れを早期発見できる体制があれば、左側の列を採用できると整理されている[5]。また、値に幅がある場合は最大値を採用すれば安全側の評価となることから、危険物保安技術協会(KHK)の評価指針は最大値での評価を標準とし、それ以外の値を使う場合は根拠の明示を求めている[5]

2-2. 放出形態の場合分け - 実務の大半は「音速のガス噴出」

開口部面積が決まれば、次は放出率Wg(kg/s)の計算である。ガイドラインは放出直後の物質の状態に応じて計算式を使い分ける[1][2]

気体の放出では、配管内圧(プロセス圧力P)と臨界圧力Pcの大小で式が分かれる。臨界圧力とは噴出速度が音速に達する境界の圧力で、大気圧と比熱比から決まり、比熱比1.4のガスでは約191kPa(絶対圧)である。プロセス圧力がこれを超えればジェット噴出(音速)の式、下回れば亜音速放出の式を用いる。もっとも、化学プラントの運転圧力は臨界圧力より高いことがほとんどであり、かつ音速式の方が放出率を大きく(安全側に)見積もるため、実務ではジェット噴出の式を使う場面が大半である[2][5]液体の放出では、まず液体としての放出率Wl(kg/s)を差圧と液体密度から計算し、そのうち気化してガスになる割合——単位時間で気化した液体の割合Ec(%)——を乗じてガスの放出率を求める[1]。気化率の設定にはKHK評価指針が実務的な整理を示しており、放出物質の運転温度における蒸気圧で揮発性を4カテゴリに分類する[5]

  • カテゴリ1(蒸気圧482.6kPa超: LPG・プロパン等の液化ガス): ほぼ瞬時に気化するため気化率100%
  • カテゴリ2(蒸気圧101.3〜482.6kPa: ペンタン等): 一部が直ちに気化し、チャートで気化率を求める
  • カテゴリ3(運転温度が引火点以上で蒸気圧101.3kPa未満: ヘキサン・ヘプタン等): ごく一部が気化し、チャートで求める(IEC規格の例示ではベンゼンの気化率2%)
  • カテゴリ4(運転温度が引火点未満: 灯油・潤滑油等): 気化率0%とみなし爆発性雰囲気を形成しない(ただしミストや蒸発プールの範囲は別途考慮)

さらに、こぼれた液体がトレーや地面のくぼみに溜まる場合は、蒸発プールからの蒸発速度を風速・プール面積・蒸気圧・分子量から別途評価する[1]。逆に、放出液が排水溝に流れ込む等の措置があればプール評価は不要となる[5]

2-3. 計算に効くパラメータ - 何をどこから入手するか

ジェット噴出の放出率計算に必要な入力は、突き詰めれば以下の表に集約される。それぞれの入手先と、結果への効き方を整理する[1][2][5]

パラメータ

入手先

放出率への効き方

開口部面積S(mm2)

IEC推奨値の表(2-1参照)

ほぼ比例。最重要パラメータ

プロセス圧力P(Pa・絶対圧)

運転実績(通常運転時の最高値)。ゲージ圧+大気圧で入力

ほぼ比例

プロセス温度T(K)

運転実績(通常運転時の最高値)

平方根の逆数で効く(高温ほど放出率は微減)

分子量M(kg/kmol)

物性値。混合物は組成の加重平均

平方根で効く

比熱比γ

物性値。混合物は近似計算

限定的

圧縮因子Z

低圧・中圧は1.0。約5MPa以上では実在気体の値を便覧等から設定

Zが小さいほど放出率は大きい(安全側)

放出係数Cd

開口部の形状で設定。規則的な形状の穴は0.99、シール隙間のような不規則な形状は0.75

比例

注意すべきは圧力の扱いである。ガイドラインの計算事例では、1MPaG(ゲージ圧)の運転圧力を1,101,325Pa(絶対圧)として入力しており[1]、ゲージ圧のまま入力すると放出率を1割前後過小評価することになる。また放出係数Cdは、解説書がシーリングエレメントの隙間に対して0.75を一般的な値として整理している[2]

2-4. 放出率から放出特性へ - LFLで規格化する

求めた放出率Wgは、そのままでは危険性の尺度にならない。同じ1g/sの漏えいでも、爆発下限界(LFL: Lower Flammable Limit・燃焼下限界とも訳される)が低いガスほど少量で爆発性雰囲気を形成するからである。そこでガイドラインは、放出率をガス密度・安全率・LFLで除した放出特性(m3/s)——「放出特性=Wg/(ρg×k×LFL)」——を評価指標とする[1]。放出をLFL未満まで薄めるために必要な希釈規模を表す量であり、次章の換気度判定にそのまま使われる。

ここで登場する安全率kは、LFL値の信頼性に応じた裕度である。実験等で精度よく得られたLFLなら1.0、混合物のモデル計算によるなら0.8〜1.0、値が正確でないと考えられる場合は0.5を設定する(kが小さいほど放出特性が大きくなり安全側)[1][5]。LFL自体は、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」のGHSモデルSDS[7]やTR-No.44[6]で調査でき、混合ガスでは各成分のLFLと体積分率からルシャトリエの式で合成する[1]。想定される値のうち最も小さいLFLを採用すれば安全側の評価となる[5]


3. 換気度・換気有効度の評価 - 「どれだけ薄まるか」を判定する

3-1. 換気速度 - 屋外0.3m/s、屋内0.05m/sという保守的な下限

放出側の定量化が済んだら、次は希釈側である。まず放出源周辺の換気速度(風速)を設定する。屋外については、ガイドラインが障害物の有無・地上高さ・ガス比重の組合せで指標を示している[1]

条件(障害物なし)

高さ2m以下

2m超5m以下

5m超

空気より軽いガス

0.5 m/s

1 m/s

2 m/s

空気より重いガス

0.3 m/s

0.6 m/s

1 m/s

障害物(塀・壁・天井など[5])がある場合はさらに低い値(重いガス・2m以下で0.15m/s)が示される。ガス比重は0.8未満を「空気より軽い」、1.2超を「空気より重い」とみなし、中間は両方の可能性を考慮する[1]。ガイドラインは換気の評価にあたり最低0.5m/sの風速が連続しているものとみなすが[1]、表の示唆値はそれよりさらに保守的である——0.15〜0.3m/s程度の空気の動きは、オフィス室内の理想的な環境と同程度に過ぎない[5]。事業者が実測した風速データがあれば、それを用いることも認められている[1]

屋内については、最低流速0.05m/sという事実上どこにでも存在するレベルの空気移動を仮定して評価する。換気装置を制御できる場合は、計算により最小換気速度を設定してよい[1]

3-2. 換気度チャート - 高・中・低の3段階

放出特性(横軸)と換気速度(縦軸)が揃えば、IEC 60079-10-1:2015のFigure C.1を翻訳したチャートに1点をプロットするだけで、換気度が高換気・中換気・低換気の3領域のいずれに落ちるかが判定できる[1]。高換気とは、放出源近傍でガス濃度が速やかにLFL未満へ希釈され、爆発性雰囲気が実質的に持続しない状態を意味する。放出特性が小さい(漏れが少ない・薄めやすい)ほど、また換気速度が大きいほど、高換気側に判定される構造である。

3-3. 換気有効度 - 換気は「あるか」ではなく「あり続けるか」

換気度と対を成すもう一つの判定軸が換気有効度である。良(実質的に連続した換気が存在)・可(通常運転中に換気が予測でき、低頻度で短時間の停止は許容)・弱(良・可のいずれでもないが長時間の停止はない)の3段階で、換気の信頼性を評価する[1]

屋外では、最低風速0.5m/sが実質的に連続して存在するとみなせるため、原則として「良」と評価できる。構造物に囲まれるなど換気が抑制される場合は「可」とする[1][5]。実務上重要なのは、後述の判定表において第2等級放出源では「良」と「可」で判定結果が変わらない点であり、屋外評価でこの区分に悩む必要はほとんどない[5]。一方、強制換気に頼る屋内では信頼性の作り込みが問われる。故障時に予備送風機が自動起動する構成であれば「良」を主張でき、TR-No.44は故障検知モニターが二重なら「良」、一重なら「可」、なしなら「弱」という具体例を示している[1][6]


4. 危険度区域の判定と危険距離の推計

4-1. 判定表 - 高換気×有効度「良・可」なら非危険区域

放出等級(第2等級)・換気度・換気有効度の3つが揃えば、危険度区域の区分は判定表から一意に決まる[1]。第2等級放出源についての判定は以下の通りである。

換気度

有効度「良」

有効度「可」

有効度「弱」

高換気

非危険区域(ゾーン2 NE)

非危険区域(ゾーン2 NE)

ゾーン2

中換気

ゾーン2

ゾーン2

ゾーン2

低換気

ゾーン1(どちらかといえばゾーン0)

同左

同左

高換気かつ有効度「良」又は「可」であれば、放出源の周りで万が一可燃性ガスが放出し着火しても影響を無視できるほど小さいと判断され、非危険区域——すなわち非防爆機器を使用できる区域——と判定される[1]。ここで「ゾーン2 NE」(NE: Negligible Extent=無視できる範囲)という概念に注意したい。非危険区域と判定されても、放出源の周囲には体積0.1m3以下の爆発性雰囲気が存在する可能性が残るため、放出源の直近(約30cm以内)には非防爆の電気機器を設置しないことが望ましいとされている[5]。非危険区域は「リスクゼロの区域」ではなく、「リスクが無視できるほど小さい区域」なのである。

4-2. 危険距離 - ゾーン2の広がりをチャートで読む

中換気等でゾーン2と判定された場合は、最後のステップとして危険距離を推計する。危険距離とは、放出された混合ガスが空気により希釈されLFLを下回る値になる箇所までの、放出源からあらゆる方向への距離——すなわちゾーン2の範囲である[1]

推計にはIEC Figure D.1を翻訳したチャートを用いる。横軸の放出特性に対して「重いガス」「拡散性」「ジェット」の3本の線が引かれており、噴出形態に応じた線と放出特性値との交点から危険距離を読み取る[1]。線の選択は、空気より重いガス(比重1.2超)や水平面に沿って広がる蒸気は「重いガス」、プロセス圧力が臨界圧力以上の妨げのない高速噴出は「ジェット」、臨界圧力未満の低速噴出や障害物への衝突で運動量を失う放出は「拡散性」という整理である[2]。同じ放出特性なら、地表に滞留する重いガスが最も長い危険距離を与える。

4-3. ガイドライン事例に見る計算の帰結 - 5事例中4事例が非危険区域

計算ロジックの帰結を、ガイドライン自身が示す5つの計算事例で確認しよう[1]

事例1: 溶剤蒸留工程のフランジ部(シクロヘキサン・ガス放出)。プロセス圧力1MPaG・温度100℃の蒸留塔フランジ(圧縮繊維ガスケット、開口部面積0.025mm2)からのガス放出を想定すると、放出率は7.3×10^-5 kg/s、放出特性は0.0016m3/sとなる。屋外・障害物なし・高さ2m以下の換気速度0.3m/sと組み合わせると換気度は「高換気」、有効度「良」で判定は非危険区域である。 事例4: 水素供給コンプレッサー摺動部(水素混合ガス)。約14MPaの高圧水素系で、摺動部の開口部面積を0.25mm2とすると、放出特性は0.31m3/sまで大きくなる。実測風速1.37m/sをもってしても換気度は「中換気」にとどまり、判定はゾーン2。チャートから危険距離は1.2mと推計される。つまりこのコンプレッサー摺動部を中心に半径1.2mの範囲だけがゾーン2として残り、その外側は非危険区域と整理できる。 事例5: 常圧蒸留装置フィードポンプ摺動部(原油・液放出)。液体放出率0.014kg/sに気化率5%を乗じてガス放出率を求め、放出特性は0.0091m3/s。換気速度1.37m/sで「高換気」となり、判定は非危険区域である。

5事例のうちゾーン2が残ったのは高圧水素コンプレッサーの1件のみで、残る4件はいずれも非危険区域と判定された。プラント全体を一律ゾーン2とする従来運用が、物理的な計算に照らしていかに保守的かを示す結果といえる。同時に、事例4が示すように、高圧・大開口部・重い放出特性という条件が重なれば計算はゾーン2を残す。精緻化とは「危険区域をなくす」ことではなく、リスクの濃淡を放出源単位で描き分けることなのである。

こうして追うと、7ステップの構造自体は決して複雑ではない。難しさはむしろ、開口部面積・組成・運転条件といった入力値を、根拠をもって安全側に選び切る作業にあり、さらに言えば、計算はゴールに至る行程の一部にすぎない。次回は、この計算を一つの部品として含む、検討開始から官庁申請までの実務プロセス全体を論じる。当社が研究会成果物として開発した実務チェックリストの6モジュールに沿って、産総研Excel計算ツールの活用と入力値選定の勘所、自主行動計画、そして危険物保安技術協会(KHK)による第三者評価と申請実務までを通しで扱う。


参考文献

ガイドライン・技術指針

[1] 経済産業省「プラント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン」(2020年1月)- リスク評価フロー(第3章)、開口部面積推奨値(表3.1)、換気速度指標(表3.2)、危険度区域の判定(表3.3)、計算事例(第5章)

https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/hipregas/files/20200121_1.pdf

[2] 経済産業省「プラント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン 解説書」(2021年3月)- 放出係数Cdの求め方、計算式の選択フロー、噴出形態の判断

https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/hipregas/files/20210331_hg_3.pdf

[3] IEC 60079-10-1:2015 (Edition 2.0), Explosive atmospheres - Part 10-1: Classification of areas - Explosive gas atmospheres(2015年9月発行)

https://webstore.iec.ch/en/publication/23265

[4] IEC 60079-10-1:2020 (Edition 3.0), Explosive atmospheres - Part 10-1: Classification of areas - Explosive gas atmospheres(2020年12月発行)

https://webstore.iec.ch/en/publication/63327

[5] 危険物保安技術協会「『プラント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン』を活用した評価指針」(2022年10月)- 開口部面積の選定基準、揮発性カテゴリと気化率、ゾーン2 NEの考え方

http://www.khk-syoubou.or.jp/pdf/guide/evaluate_performance/11-02.pdf

[6] 独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所「ユーザーのための工場防爆設備ガイド」(TR-No.44、2012年11月発行、2020年10月改定版)

https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/doc/tr/TR_No44.pdf

データベース・計算ツール

[7] 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」GHSモデルSDS情報 - 燃焼下限界(LFL)等の物性値の調査に活用

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/GHS_MSD_FND.aspx

[8] 国立研究開発法人 産業技術総合研究所「プラント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン 計算ツール」(2020年4月提供開始)

https://riss.aist.go.jp/sanpo/2020guideline/


EMLink

運営

株式会社設備保全総合研究所

設備保全DXソリューション「EMLink」を提供しています

EMLinkについて

関連記事