【工場・プラント防爆最前線 #4】防爆エリア精緻化の実務運用
防爆エリア精緻化のゴールは計算ではなく、非防爆電子機器が現場で使える状態に至ることである。当社が研究会成果物として開発した「危険区域精緻化のための実務チェックリスト」(6モジュール・22項目)を地図に、①目的設定→②事前準備→③危険区域計算(産総研Excelの活用と入力の勘所)→④自主行動計画→⑤所内リスクアセス→⑥官庁申請・KHK第三者評価まで、検討開始から申請・運用開始までの実務を通しで解説する。
前回の記事では、危険区域評価の計算ロジック——開口部面積から放出率・放出特性を求め、換気度・換気有効度との組合せで危険区域と危険距離を判定する7ステップ——を読み解いた。しかし、計算はゴールではない。精緻化のゴールは、非防爆の電子機器が現場で安全に使える状態、すなわち目的の明確化から官庁申請・運用開始までの全行程を完走することにある。計算だけが独り歩きしても、現場は1ミリも変わらないのである。
本記事では、この全行程の歩き方を論じる。軸に据えるのは、当社が「中堅・小規模プラントにおける現場DX研究会」の成果物として開発した「危険区域精緻化のための実務チェックリスト」(2023年11月)である。検討開始から官庁申請までを6つのモジュールに分解したこのチェックリストに沿って、産総研Excel計算ツールの活用と入力の勘所、危険物保安技術協会(KHK)による第三者評価の使い分けまで、各段階の実務と落とし穴を具体的に解説する。
1. 実務チェックリスト
1-1. なぜチェックリストを作ったか
ガイドライン[1]・解説書[2]・KHK評価指針[5]といった公的文書は網羅的である反面、「自分の事業所では明日から何をすればよいか」への翻訳は読み手に委ねられている。プラント現場における電子機器の利活用は、危険区域の計算のみならず、各種所内リスクアセスメントや地元消防への申請を含めた広範な検討を必要とするからである。この翻訳作業を肩代わりするために、当社は研究会活動を通じて、検討事業者が陥りやすい落とし穴を明示しながら各担当者が実務に沿って検討を進められるチェックリスト形式の資料を開発した。狙いはただ一つ、事業者自らが主体的に危険区域の設計を検討できるようになることである。
もう一つの特徴は、数値選択の根拠を極力記載した点である。公開文書に書かれた推奨値をなぞるだけでなく、記載が曖昧な論点は関係団体へのヒアリングで裏取りし、「なぜこの値を選ぶのか」を各項目のコツ欄に残した。本記事で紹介する実務の勘所は、その多くがこのチェックリストの「躓きポイント・コツ」欄からの抜粋である。
1-2. 6モジュール・22項目の構成
チェックリストの背骨は、前回までに紹介した電子機器利活用ジャーニーに対応する6モジュール・22のチェック項目である。
モジュール | 概要 | 項目数 |
|---|---|---|
①目的設定・対象選定 | ゾーン2の精緻な評価により「やりたいこと」と「享受できるメリット」を明確化し、所内コンセンサスを獲得する | 2 |
②事前準備 | 所内で検討を始めるためのプロセスデータの整備と、必要な推計データの計算準備 | 5 |
③危険区域計算 | IEC Edition 2.0を骨格とした経産省ガイドラインに基づき、ゾーン2=爆発下限界の範囲を同定する | 7 |
④自主行動計画策定 | 非防爆電子機器の利用開始にあたり、残存リスクを減じるための"予防規程に上乗せ"される行動計画を策定する | 3 |
⑤所内リスクアセス | 予防規程の変更、運用上の各種手順書改定を含むリスクアセスメント、現場装備の変更確認 | 2 |
⑥官庁申請・利用許可 | 所轄消防への申請(又は事前のKHK評価活用)。提出資料の策定と変更許可申請に準じた手続き | 3 |
各項目には「具体的作業」「躓きポイント・コツ」「利用シート」「参考資料」「チェック欄」を割り当てており、作業者と評価者の氏名を記入して上から順に潰していけば、目的設定から官庁申請後の効果検証まで一気通貫で進む作りになっている。さらに7枚の詳細シートには、エチレン原料・エタノール(液/気)・水素混合ガスという4つの教材サンプルプロセス(6開口部)を収録し、組成・運転条件の入力からLFLのルシャトリエ計算、放出特性の算出、危険距離の読み取りまでを実データで通しで体験できるようにした。
以降、このモジュールの順に沿って、各段階の実務を歩いていく。
2. モジュール①② - 目的設定と事前準備が全体の成否を決める
2-1. ①目的設定 - 「良い例」と「悪い例」
最初のチェック項目は、精緻化を通じて成し遂げたいこと・あるべき姿の明確化である。チェックリストでは、目的設定の良い例と悪い例を対で示している。良い例は「常時監視タイプの振動センサを取り付けるために、蒸留塔のチャージラインを評価しよう」。悪い例は「とりあえず装置全体を評価して、何かに対応できるようにしておこう」——後者は具体的な利用シーンがないため、後続の所内リスクアセスメントが精緻にならず、行程全体が漂流する。第2回で論じたピンポイント評価の思想は、チェックリストの先頭で最初の関門として機能する。
もう一点、目的設定段階で押さえるべき基本思想がある。精緻化の主眼は、熟練作業員の減少等により今後増大する重大事故リスクへ、電子機器の利活用で対応することにある。コスト削減も目的の一つだが、それが主眼ではない[1]。この整理は所内コンセンサス獲得の場面で効いてくる——「安全を犠牲にコストを浮かせる取り組み」という誤解を防ぐ盾になるからである。
2-2. ②事前準備 - プロット図・P&ID・プロセスリスト・開口部調査
事前準備モジュールは5項目で構成される。チェックリストの「コツ」欄から要点を抜粋する。
- 現行防爆エリアの確認(プロット図): 現在の危険区域設定を過去の消防への申請資料等から確認し、第2等級エリアの範囲を図示する。構造規格の基準では「第2類危険箇所」と表現されており、申請書もその記載となっている可能性に注意する
- P&ID(配管計装図)の準備と着色: 評価対象系統をP&ID上で着色して明確化する。着色は可燃性物質ごとに区切り、混合・反応・分留等で性状が変わる場合は系を分ける。蒸留塔は抜出し段数によって組成が異なるため別系統として扱う一方、熱交換器や圧縮機は前後で性状が変わらなければ同一系統でよい。消防申請への利活用と以後の管理を考えると電子データでの着色が望ましい
- プロセスリストの作成: 温度計・圧力計のヒストリカルデータ、上下流機器の最高運転条件、設計図書のスペックシートを突き合わせ、系統ごとの代表運転条件を確定する。全プロセスの個別評価は時間的に難しいため、同一系統で最も条件の厳しい運転条件を代表として評価すれば、系統全体を安全側に評価したことになる[5]
- 物性値の精査: 組成はアナライザーやサンプリングによる精緻な分析が望ましい(計算結果に強く影響する)。設計値と運転実態が乖離しているケースは珍しくない
- 開口部(放出源)の現場調査: 対象系統の開口部を、環型シール部(フランジガスケット等)・接続型シール部(リング型継手等)・低速摺動部(バルブ弁体等)・高速摺動部(ポンプ・コンプレッサのシール部)の4類型で漏れなく列挙する。溶接による接合部は放出源に該当しない
2-3. 事前準備が工数の律速になる
6モジュールのうち、工数見積りで最も外れやすいのがこの②事前準備である。老朽化したプラントほど図面と現物の乖離や計器データの欠落が起きやすく、「計算は1日、データ集めは1カ月」という配分になり得る。第2回で論じたピンポイント評価——目的を絞り、対象系統を限定する——は、この事前準備の工数を制御するための実践的な戦略でもある。評価範囲を絞るからこそ、絞った範囲のデータ品質(組成分析・実測風速等)に投資できるのである。


3. モジュール③ - 危険区域計算: 産総研Excelを正しく使い倒す
3-1. ツールの入手と自動化の範囲
計算モジュールの主役は、産業技術総合研究所(産総研)が2020年4月1日に提供を開始した、ガイドラインの危険度区域分類をグラフ化したExcelファイルとその使用マニュアルである[3]。経済産業省の委託事業の成果として作成され、産総研の産業保安ポータルサイト「さんぽのひろば」から申込登録制で入手できる(許可のない複製・配布は禁止)[4]。前回論じた7ステップの計算部分——放出率の計算、放出特性への換算、換気度チャートへのプロット、危険距離チャートの読み取り——が、パラメータ入力だけでシームレスに進む[2]。
ただし、すべての放出形態が自動計算されるわけではない。チェックリストでは放出率計算を4パターンに場合分けして整理している。
- ケースI: 気体のジェット噴出(音速) → 産総研Excelで計算可能
- ケースII: 気体の亜音速噴出 → ガイドラインの計算式で手計算
- ケースIII: 液体放出(蒸発プール形成なし) → 産総研Excelで計算可能
- ケースIV: 液体放出(蒸発プール形成あり) → ガイドラインの計算式で手計算
前回述べた通り、プラントの運転圧力は臨界圧力を上回ることがほとんどでケースIが実務の大半を占める[2][5]。液体放出も、危険物エリアは設計上の傾斜設置や施設管理による補修義務があるため蒸発プールの形成は少なく、実務上はケースIIIが多数派になる、というのがチェックリストの整理である。つまり実務上の多数派はツールで完結する。ツールはガス放出用と液放出用でシートが分かれており、「サンプル(ガス放出)」「サンプル(液放出)」のシートをコピーして評価対象ごとに使い回す。亜音速放出や蒸発プールの評価に出会ったときに手計算へ切り替える判断ができるかどうかが、マニュアル熟読が求められる理由の一つである。
3-2. 入力の全体像 - 教材サンプルに見る「200倍の差」
産総研Excelへの入力は、突き詰めれば次の4区分に整理できる。
区分 | 主な入力項目 | 入手元 |
|---|---|---|
運転条件 | プロセス圧力(絶対圧)・プロセス温度 | 温度計・圧力計のヒストリカルデータから通常運転時の最高値。計器がない場合は設計値・常用値 |
物性値 | 分子量・LFL・比熱比・圧縮因子・ガス比重(液体は液体密度・蒸気圧) | SDS・技術指針の物性表[1]。混合物は組成から加重平均・ルシャトリエ式で合成 |
放出源条件 | 開口部面積S・放出係数Cd | |
評価環境 | 屋内外・地上からの高さ・障害物有無(→換気速度) | プロット図・現場調査。換気速度はガイドライン表3.2[1]又は実測値 |
②事前準備で組成・運転条件・開口部の3つの調査が済んでいれば、入力自体は難しくない。入力と出力の関係を体感するには、チェックリストに収録した教材サンプルの一例が分かりやすい。エチレン80%・プロピレン20%の原料系統(運転圧力1MPa・運転温度323K、LFLはルシャトリエの式で0.026)を評価すると、同じプロセス条件でも、静機器フランジ(渦巻形ガスケット、開口部面積0.025mm2)の放出特性は0.0015m3/sにとどまる一方、コンプレッサ摺動部(高速作動、5mm2)は0.309m3/sに達する。開口部の類型が違うだけで、放出特性は約200倍変わる。プロセス全体を漠然と眺めるのではなく開口部単位で評価するという前回来の原則が、この数字の開きからも実感できる。
3-3. 入力値選定の作法 - 安全側・根拠・保守性のバランス
入力値の選定原則は明快である。幅のある推奨値は大きい側(安全側)を標準とし、それ以外の値を使うなら根拠を示す。KHKの評価指針は、開口部面積について「最大の値で評価することを標準」とし、下限値の採用には根拠明示を求めている[5]。チェックリストでは、公的3文書の記載を横断してパラメータごとの安全側の選択を次のように整理している。
パラメータ | 安全側の選び方 | 根拠・出典 |
|---|---|---|
開口部面積S | 推奨値に幅があれば最大値。エロージョンの有無が不明なら両方の列で評価し比較 | KHK評価指針[5] |
運転圧力・温度 | 同一系統で最も厳しい運転条件を代表値とし系統全体に適用 | KHK評価指針[5] |
組成・LFL | アナライザー等での精緻な分析が望ましい。混合物のLFLは最小値採用が安全側 | KHK評価指針[5] |
安全率k | LFLが実験値なら1.0、モデル計算なら0.8、不明確なら0.5(小さいほど安全側) | ガイドライン[1] |
ガス比重 | 0.8〜1.2の中間域は「空気より重い」として扱えば安全側(換気速度が小さくなる) | |
地上からの高さ | 放出源の種類ごとに最も低い位置の値を採用(換気速度が小さくなり安全側) | KHK評価指針[5] |
屋内外 | 屋内外が混在するエリアは屋内(最低流速0.05m/s)として計算すれば安全側 | ガイドライン[1] |
ここで実務者が直面するジレンマがある。すべてのパラメータを最悪側に倒せば評価は確かに安全側になるが、その結果ゾーン2判定が残れば、精緻化に投じた工数の便益がそのまま消失する。このとき取るべき方向は、危険側の値を「えいや」で使うことではなく、データの質を上げて不確実性そのものを減らすことである。組成をアナライザーで実測してLFLと分子量の裕度を削る、最も風速が弱そうな場所の実風速を測定して表の示唆値より大きな換気速度を採用する、気化率をシミュレーション解析で精緻に求める——いずれも根拠を示すことを条件に許容されている[5]。
なお「根拠を残す」姿勢は、単なる社内文書管理の話ではない。評価結果は最終的に所轄消防への説明資料となり、KHKの第三者評価を受ける場合には有識者委員会の審議対象となる。すべての入力値に「なぜこの値か」を答えられる状態を作ることが、評価業務の品質そのものである。

4. モジュール④⑤ - 自主行動計画と所内リスクアセス: 計算を現場のルールに翻訳する
4-1. なぜ計画が要るのか - 非危険区域は「リスクゼロ」ではない
前回述べた通り、高換気・有効度良で「非危険区域」と判定されても、それは「ゾーン2 NE」——放出源の周囲に体積0.1m3以下の爆発性雰囲気が存在し得る区域——であり、放出源の直近約30cm以内には非防爆機器を設置しないことが望ましい[5]。また評価の前提は通常運転であり、スタートアップ・シャットダウン時は温度変化によりフランジ等からの漏えいリスクが相対的に高まる。ガイドライン自身も、放出源の周辺はリスクが全くないものではないとした上で、リスク評価の方法・結果や非防爆機器使用の留意点を社内で取りまとめることが望ましいと述べている[1]。
つまり計算の出力は、それ単体では現場に実装できない。残存リスクを低減するための所内活動——「どの機器を、どこで、どんな条件で使い、異常時にどう動くか」——を定める自主行動計画に翻訳されて初めて、危険区域評価は電子機器利活用という成果に結実する。
4-2. ④自主行動計画 - 「予防規程への上乗せ」を3つの視点で組む
チェックリストでは、自主行動計画の骨子を3つの視点から組み立てる構成を採っている。現場設備(現場標識、エリア区分の明示、固定式機器の開口部からの距離等)、オペレーターの行動(可搬式・固定式の非防爆機器の利用手順、ガス検知器での測定等)、所内組織体制(管理責任と教育訓練)である。考え方の根幹は「危険区域を精緻化した際に残存するリスクを低減するための所内の活動」であり、実務上は消防申請済みの予防規程への上乗せ対応になることが多い。定められた統一フォーマットはまだなく、経産省が公開するひな形等[1]をベースに自事業所の実態へ具体化していく。
続く⑤所内リスクアセスは、予防規程の変更、運転・保全・環境安全等の各部門への通知、運用手順書の改定、現場装備の変更確認といった社内手続きである。この部分は各社のリスクアセスメント体系に依存するため、チェックリストでもあえて詳細を規定せず、確認項目の提示に留めている——ここを外部の資料が代行することはできない、というのが正直な整理である。
4-3. 運転条件が変わったら再評価 - 前提条件の管理
危険区域評価は、評価時点の運転条件と物性を前提とした静的な計算である。原料の変更、運転温度・圧力の変更、設備改造が生じれば前提そのものが崩れるため、速やかな再評価が必要となる[2]。ここで効いてくるのが3-3節の「根拠を残す」作法である。プロセスリストと入力値の採用根拠が文書として整理されていれば、変更時に影響を受けるパラメータだけを差し替えて再計算でき、再評価は軽微な作業で済む。評価を一度きりのプロジェクトではなく、変更管理(MOC)に組み込まれた継続プロセスとして設計することが、精緻化を持続可能にする。
5. モジュール⑥ - 官庁申請: KHK第三者評価という選択肢
5-1. 申請パッケージは「4点セット」
最終モジュールは所轄消防への申請である。チェックリストでは必要書類を①変更許可申請の表書、②当該危険区域に関する計算書(対象プロット図・P&IDを添付)、③自主行動計画、④予防規程の変更内容の4点セットとして整理している(②と③は一対の書類として扱う)。手続きは変更許可に準じた工事としての申請となるが、必要書類にはまだ統一された指標がないため、所轄消防への都度確認が前提である。消防危第84号通知も、危険区域の設定にあたり自主行動計画の策定や予防規程の見直しを求めており[11]、モジュール④⑤の成果物がそのまま申請パッケージの中身になる構造が分かるはずである。
5-2. KHK第三者評価 - 「計算代行」ではなく「妥当性確認」
自社でガイドライン計算を実施しても、その妥当性を所轄消防が判断できるとは限らない。この「評価する側の目線」の問題に応える制度が、消防法に基づく認可法人であるKHKの評価業務である。KHKは2022年10月に「ガイドラインを活用した評価指針」を公表し[5]、2022年度から「危険物施設における危険区域の設定に係る評価」業務を実施している[6][7]。事業者の評価結果を有識者等で構成する評価委員会に諮り、公正・中立な立場から妥当性を評価する仕組みである。
留意すべきは対象範囲の限定である。KHKが評価するのは消防法の設置許可を受けた製造所等のうち屋外の施設・屋外に設置された第2等級放出源のみであり、建屋内の放出源や地盤面下のピット等は対象外となる[5][6]。流れは、(1)許認可権限を持つ消防本部等への事前相談、(2)事業者自身による評価実施とKHKへの申請、(3)評価委員会での審議、(4)評価結果を添えた消防への申請——の4段階である[6]。
当社がチェックリスト作成時に行ったヒアリングでは、事務局が確認するのは書類の不備や基本的な計算結果までであり、計算結果の蓋然性そのものは、事業者自身が有識者委員会に対して行うプレゼンテーション・質疑を通じて審議されるとの運用が確認されている。第三者評価とはいえ「出せば通る」ものではなく、自社の計算根拠を自分の言葉で説明できる準備——3-3節で述べた「すべての入力値に根拠を答えられる状態」——が前提となる。またKHKの評価対象は原則「危険区域の計算」のみであり、自主行動計画の策定等は対象外である[5]。
5-3. 計測ベースへの拡大と、申請後の PDCA
第1回で紹介した消防危第140号(2025年6月30日)は、この第三者評価の役割をさらに広げた。同通知は、可燃性蒸気等の濃度が25.0%LEL未満と認められる場所では、0.1%LEL以下の精度で測定・記録できる防爆構造の検知器を常時稼働させる等の条件の下で非防爆の電気機械器具等を使用できるとする計測ベースの運用を示し、その適切性の確認には第三者評価機関の評価結果等の活用が望ましいと明記した[9]。140号は2025年12月(消防危第253号)と2026年3月(消防危第59号)の一部改正を経て、屋外に加えて屋内の場所にも運用対象が拡大されている[10]。KHKも現在、ガイドライン計算の評価に加えて140号運用の評価を実施しており[8]、区域ベースと計測ベースの双方で第三者評価を活用できる体制が整った。
そしてチェックリストの最終項目(22番目)は、申請でも許可でもなく「所内PDCAの確認と精緻化の効果検証」である。自主行動計画や予防規程に定めた現場表示・機器管理・オペレーターの行動が実施されているかを所内監査等で確認し、①目的設定で描いた効果が実現しているかを検証する。官庁の許可はゴールではなく、運用の起点にすぎない——6モジュールを一周して、行程は再び①の「あるべき姿」に戻るのである。
次回は、モジュール④を深掘りする。自主行動計画に盛り込むべき項目(機器管理・ガス検知器の運用・現場表示・教育訓練等)とKHKが推奨する規定事項、予防規程との関係、そして所轄消防との協議・変更許可申請の実務を、公開されているひな形・事例に即して論じる。

参考文献
ガイドライン・技術指針
[1] 経済産業省「プラント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン」(2020年1月)
https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/hipregas/files/20200121_1.pdf
[2] 経済産業省「プラント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン 解説書」(2021年3月)- 産総研Excelファイルの紹介、日産化学富山工場の見直し事例を収録
計算ツール
[3] 国立研究開発法人 産業技術総合研究所「『プラント内における危険度区域の精緻な設定方法に関するガイドライン』の危険度区域分類をグラフ化したExcelファイル及び使用マニュアルの提供開始」(2020年4月1日)
https://www.aist.go.jp/aist_j/news/au20200401_2.html
[4] 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 産業保安ポータル「さんぽのひろば」計算ツールダウンロードページ
https://riss.aist.go.jp/sanpo/2020guideline/
第三者評価(KHK)
[5] 危険物保安技術協会「『プラント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン』を活用した評価指針」(2022年10月)
http://www.khk-syoubou.or.jp/pdf/guide/evaluate_performance/11-02.pdf
[6] 危険物保安技術協会 機関誌「Safety&Tomorrow」No.205「危険物施設における危険区域の設定に係る評価業務について(業務開始前のお知らせ)」(2022年)
http://www.khk-syoubou.or.jp/pdf/magazine/205/khk_info01.pdf
[7] 危険物保安技術協会 機関誌「Safety&Tomorrow」No.211「危険物施設における危険区域の設定に係る評価業務について(お知らせ)」(2023年)- 2022年度(令和4年度)からの業務実施を記載
https://khk-syoubou.or.jp/pdf/magazine/211/khk_info06.pdf
[8] 危険物保安技術協会「性能評価等」(危険物施設における危険区域の設定に係る評価)
http://www.khk-syoubou.or.jp/guide/evaluate_performance.html#ep11
行政通達
[9] 消防庁危険物保安室「消防危第140号 製造所又は一般取扱所において電気機械器具等を使用する場合の運用について」(2025年6月30日)
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/62801b100d0b12b7505f31e201338c118aa0288c.pdf
[10] 消防庁危険物保安室「消防危第59号 『製造所又は一般取扱所において電気機械器具等を使用する場合の運用について』の一部改正について」(2026年3月26日)- 新旧対照表に2025年12月17日消防危第253号による一部改正の経緯を含む
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/260326_kiho_59.pdf
[11] 消防庁危険物保安室「消防危第84号 危険物施設における可燃性蒸気の滞留するおそれのある場所に関する運用について」(2019年4月24日)
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/190424kihotuuti.pdf
