給脂後に軸受温度が上がったら|追加する前に見る四つの記録
給脂後の軸受温度上昇は、潤滑剤の不足だけでなく過多でも起こり得る。追加給脂の前に確認する実量・銘柄・時刻・運転条件を整理し、X線CT研究とメーカー技術資料から、原因の切り分けと記録の残し方を解説する。

定期給脂を終えた後、軸受ハウジングの温度がいつもより高い。「足りなかったのか」とグリースガンをもう一度つなぐ前に、確認したいことがある。温度上昇の原因には、潤滑剤の不足だけでなく過多も含まれる。温度計の値だけでは、追加すべきかを決められない。[1]
本稿は、定期補給を行うグリース潤滑の転がり軸受を対象に、給脂後の変化をどう切り分けるかを整理する。補給を想定していない密封軸受へ給脂を追加する手順ではない。急激な上昇や異音・振動などの異常は、設備ごとの停止基準と責任者の判断に従う。原因調査のために異常運転を続けることは前提にしない。
入れた直後のグリースは、攪拌される
グリースは多く入っているほど、必ず潤滑が良くなるわけではない。軸受内で激しく攪拌される状態では、抵抗と発熱が大きくなる。SKFの技術解説は、初期充填や再給脂後にグリースが転動体の間で攪拌され、その後、軌道の外側などへ押し出される過程を説明している。過剰なグリースは、高い攪拌損失と温度上昇につながり得る。[2]
この挙動は、軸受内部の観察研究でも検討されている。野田隆史氏ら(論文掲載時:日本精工・基盤技術研究所ほか)は、樹脂製の玉軸受をX線CTで撮影し、グリースの分布が攪拌状態から変化する様子を調べた。学術論文には、試験・観察と流動解析の両方が記載されている。[3]
ただし、この研究の回転条件は600 min⁻¹という限定された低速条件である。論文自体も、高速では異なる挙動となり得ることを述べている。「何分待てば温度が戻る」「何グラムが適量」と現場設備へ転用する根拠にはならない。研究から読み取れるのは、内部のグリースは一様に居続けるわけではなく、量と配置の両方が重要だということである。
最初にそろえるのは、給脂前後の条件である
以下は原因調査のための編集部の整理例である。一つの項目だけで過給脂と断定せず、変化が起きた時刻と作業・運転条件を合わせて読む。
記録 | 確認したいこと |
|---|---|
給脂の前後 | いつから温度が変わったか。作業前から上昇していなかったか |
使用銘柄と実量 | 指定品か。何回押したかだけでなく、何g入れたか |
運転条件 | 回転数、負荷、起動後の時間、周囲温度が比較可能か |
補給・排出経路 | 設備の構造と指定手順に照らして、入口・出口はどうなっているか |
例えば、前回記録が停止直後、今回が負荷の高い連続運転中なら、同じ測定点でも単純な前後比較にはならない。ハウジング表面で測った温度と、内部のセンサー値も同じ測定値ではない。測定点と方法を記録して初めて、作業による変化か、測り方の違いかを調べられる。
「10回押した」を、給脂量の記録に変える
グリースガンを押した回数は、同じ条件で使う場合の作業目安にはなる。しかし、ガンを替えたときまで同じ量を示すとは限らない。設備の指定補給量がgで定められているなら、使用するガンの吐出量を測り、回数と質量を対応づける運用が必要になる。
例として、指定補給量が12gで、使用するガンを測定した結果が1回あたり0.8gなら、単純計算上は15回に相当する。これは計算方法を示す架空例であり、12gを一般の軸受へ推奨するものではない。ガンの個体や使用条件が変わった場合、古い換算をそのまま使う根拠も確認する。
量の確認では、初回の封入量と運転中の補給量を取り違えない。NTNの総合カタログも、充填量はハウジング設計、空間容積、回転速度、グリースの種類などによって異なると説明している。カタログの充填量の目安を、設備の補給1回分へそのまま置き換えることはできない。[4]
配管を経由する補給であれば、「ガンから出た量」と「軸受へ到達した量」の間に、経路の状態という確認事項もある。作業記録は注入口までで終わらせず、配管や指定の排出経路に変更・閉塞の疑いがないかを、設備の構造に即して整理する。運転中に保護カバーやプラグを独断で外して確かめるという意味ではない。
記録例:「温度が上がった」を比較できる情報にする
例えば、次の二つは記録の質が異なる。
「午前に給脂。午後、温度高め。経過観察」では、温度が変わる前後の関係も、何を確認して観察としたかも分からない。
これに対し、「設備P-101の駆動側。9時に指定銘柄を12g補給。給脂前と給脂後を、同じハウジング測定点・同じ計器で記録。回転数と負荷は各時刻で併記。温度推移と振動値を責任者へ報告し、設備の判定基準に照らした判断を記録」とすれば、原因調査で比較する項目が見える。これも架空の記録例であり、特定の機械への補給量や運転継続を推奨するものではない。
測定条件がそろっていなければ、その差も残す。給脂と同時に生産負荷を上げた場合、変化を給脂だけの影響として扱えない。前後関係の記録は因果関係の証明ではないが、複数の候補を調べる順序を決める材料になる。次の担当者が同じ条件で再確認できることが、記録の実務的な価値である。
温度の動きと、他の兆候を合わせる
NTNの点検資料は、温度上昇の原因として、潤滑剤の過多・不足のほか、取付け不良、内部すきま、過大荷重、密封装置の摩擦なども挙げている。給脂の直後だからといって、原因をグリース量だけに限定できない。[1]
調査では、次のように「確認できた事実」と「原因の候補」を分ける。
- 給脂直後から上昇した。 作業との時間的な関係はある。実量、銘柄、補給経路、負荷変化を確認する段階であり、過給脂の確定ではない。
- 給脂前から上昇していた。 定期給脂とは別に、運転条件や軸受・取付け側の状態を調べる必要がある。
- 温度に加えて異音・振動も変わった。 温度だけの監視へ狭めず、設備の停止・点検基準に従って判断する。
「給脂後ならよくある」として一定時間の運転継続を一律に決めない。設備の正常時推移と現在の変化を比べ、停止基準に該当するかを先に確認する。温度が落ち着いた場合も、それだけで潤滑状態や軸受の健全性が証明されたことにはならない。
銘柄変更も、作業履歴に残す
同じ色、同じ「2号」という表示でも、同じグリースとは限らない。NTNは異種グリースの混合により性状が変わる場合を挙げ、原則として同一銘柄以外を混合しないよう説明している。[4]
設備台帳には指定銘柄を、補修・給脂履歴には実際に使った銘柄と量、時刻、前後の運転条件を残す。「指定品なしのため代用品」とだけ書かれていれば、適合や混合の確認が済んだとは読めない。変更の根拠、確認先、切替え方法を同じ設備番号からたどれる形にする。
定期給脂を実施したという記録だけでは、次回の温度上昇を説明できない。量・銘柄・時刻・運転条件の四つがそろうと、「もう少し入れる」という対処から、原因を比較できる調査へ進める。状態を見ながら保全する考え方は、予防保全とTBM・CBMの違いでも解説している。
参考文献
[1] NTN「機械の運転状態での点検」。「軸受の温度」「異常温度上昇の主要原因」。 技術資料
[2] SKF, “Grease lubrication mechanisms in rolling bearing systems”, Evolution, 2013年6月28日。“Phases in grease lubrication”。 技術解説
[3] 野田隆史・柴崎健一・宮田慎司・谷口雅人「玉軸受におけるグリース挙動のX線観察および多相流解析の妥当性確認」『トライボロジスト』61巻4号、2016年、275–284頁。筆頭著者所属:日本精工・基盤技術研究所。実験条件は本文2節、適用限界は4節。 学会掲載ページ / 原文PDF
[4] NTN『転がり軸受総合カタログ』総合解説11「潤滑」。11.3.1(5)異種グリースの混合、11.3.2充填量、11.3.3補給。 技術冊子PDF
