EAMとは?設備資産管理とCMMSとの違い
EAMは、設備の導入から保全・更新までを資産の価値と費用の両面で管理する考え方である。CMMSとの違いを管理目的から整理し、保全履歴・在庫・予算をつなぐ業務例と、自社に必要な範囲の確認方法を解説する。

EAM(Enterprise Asset Management:設備資産管理)は、設備の導入・運用・保全・更新を通じて、設備が事業に生む価値と、そのために必要な費用やリスクを管理する考え方である。EAMシステムは、その判断に使う情報をつなぐ役割を持つ。
例えば、繰り返し修理しているポンプについて、修繕費だけでなく停止の影響、交換部品の調達、更新費用も確認する。日々の作業記録を、修理の継続や設備更新の判断に使える形へ整理することが目的である。CMMSとの違いは名称だけでは決まらず、管理する業務と利用する機能を分けて考える必要がある。
1. EAMとCMMSの違いは、管理目的と必要な業務で考える
1-1. 日々の保全記録を、設備の導入・更新判断につなぐ
CMMS(Computerized Maintenance Management System)は、点検や修理の作業指示、予定、実績、設備の履歴など、保全業務の情報管理を支える。製品によっては在庫、費用、再発注や外部システムとの連携も扱うため、「CMMSでは購買や会計連携ができない」と一律には区分できない。[1]
EAMでは、日々の保全記録を設備のライフサイクル全体の判断へつなぐことが中心となる。必要な機能をすべて一つの製品で持つか、購買・会計などの既存システムと連携するかは、導入構成によって異なる。比較の出発点は、自社が何を判断できるようになりたいかである。
業務・判断 | 必要な情報 | 製品デモで確認する点 |
|---|---|---|
点検・修理を計画どおりに進める | 設備、予定、担当、作業指示、実績 | 設備の履歴から、次の作業と担当を追えるか |
部品待ちや在庫の偏りを把握する | 使用部品、在庫、出庫、発注情報 | 作業と在庫を結び付けられるか。購買情報との連携範囲はどこか |
修理の継続と更新を比較する | 修繕費、停止の影響、更新案、予算 | 設備ごとの情報を集約し、判断の根拠を確認できるか |
上表は特定製品の対応一覧ではなく、比較に使う業務例である。EAMという名称だけで全機能が揃うと判断せず、必要な情報の持ち方と連携範囲を確認する。日常保全のデータ整備から始める手順は、CMMS導入の進め方で詳しく扱う。
1-2. ISO 55000は、資産管理の原則を示す規格
ISO 55000:2024は、アセットマネジメントの用語、概要、原則を整理する国際規格である。資産を通じて組織の目的にどう貢献するかを扱い、個々のEAMソフトウェアの機能一覧を定める仕様ではない。[2]
設備資産管理には、情報を記録する機能に加え、その情報を誰が更新し、どの会議や承認で判断に使うかという運用設計が必要となる。例えば、現場が登録する故障履歴と、購買部門が持つ納期・価格、経営側の予算判断をつなげることで、修理・更新の選択肢を同じ前提で検討しやすくなる。
2. ライフサイクルコストの実態 - EAMが解くべき構造的課題
2-1. 取得費だけでなく、運転・保全・停止の費用を比較する
設備の購入価格だけでは、使い続ける間に必要な総費用は分からない。ライフサイクルコスト(LCC)では、取得・設置から運転、保全、停止、廃棄までを含めて比較する。米国エネルギー省、Hydraulic Institute、Europumpのポンプ向けガイドも、これらの費用を整理し、同じ条件で代替案を評価する考え方を示している。[3]
例えば、更新価格が低いポンプでも、消費電力や修繕頻度、部品待ちによる停止が大きければ、長期の総費用は高くなる可能性がある。費用の割合は運転時間や設備条件によって変わるため、購入費や保全費に一律の比率を当てはめるのではなく、自社の実績と見積りから比較する。
EAMを検討する際は、保全記録、エネルギー使用量、停止履歴、調達条件、更新案のどこに情報があり、どう結び付けるかを整理する。CMMSの記録を利用する方法も、既存の会計・購買システムと連携する方法もある。必要なのは、製品名による区分よりも、判断に使える情報を揃えることである。
2-2. 計画外ダウンタイムの経済的インパクト
計画外停止は、修理費に加えて、生産機会の損失や復旧対応の費用を伴う。設備や生産の条件によっては、停止による損失が修理費を上回るため、保全費用と合わせて評価する必要がある。
Siemens社が2024年に発表した「The True Cost of Downtime」[4]によれば、世界の大手製造業・インフラ企業上位500社が被る計画外ダウンタイムの経済損失は年間合計約1.4兆ドル(約210兆円)に達し、これは対象企業の売上高の約11%に相当する。2019-2020年時点では8,640億ドル・売上高比約8%であったことから、ダウンタイムの経済的インパクトは拡大を続けている。この増加の背景には、生産設備の高度化に伴う1時間あたりダウンタイムコストの上昇と、グローバルサプライチェーンの複雑化による波及損失の拡大がある。
こうした損失を抑制する手段として、予知保全(PdM:Predictive Maintenance)の有効性を定量的に示したのがDeloitte社の調査[5]である。同調査によれば、予知保全技術の導入によりダウンタイムの35-45%削減、予期しない故障の70-75%排除、保全コストの25-30%削減が達成されている。米国エネルギー省FEMP(Federal Energy Management Program)のデータ[1]も同様の傾向を示しており、事後保全から予知保全への転換で30-40%のコスト削減が報告されている。
予知保全を実際の作業につなげるには、設備の状態データだけでなく、故障履歴、運転条件、対応できる人員や部品も確認する必要がある。これらを結び付ける仕組みはEAMに限らず、CMMSと監視システムの連携などでも構成できる。ソフトウェアの導入だけで、上記の削減率がそのまま再現されるわけではない。
2-3. 設備更新の判断に必要な記録を揃える
同じ設備を繰り返し修理していても、故障原因が同じとは限らない。更新を判断する際には、「何を修理したか」に加え、発生時の運転条件、停止時間、交換した部品、修理後の状態を合わせて確認する。CMMSでもEAMでも、こうした情報を設備や作業に結び付けて残すことが、分析の出発点となる。
平均的な故障間隔や使用年数だけから、すべての設備に共通する交換周期を決めることはできない。対象の故障モード、点検結果、運転負荷、安全上の制約、計画停止の機会を踏まえて、修理を継続する案と更新する案を比較する。
EAMシステムの役割は、その比較に必要な実績や見積りを集め、判断の根拠を追えるようにすることである。最終的な修理・更新判断には、設備の技術的評価と組織の承認を組み合わせる。
3. グローバル成功事例の構造分析
3-1. スキポール空港 - 80,000資産のデジタルツイン統合
オランダ・アムステルダムのスキポール空港(年間約7,000万人の旅客を取り扱う欧州第3位のハブ空港)は、EAM導入の成功事例として最も体系的に公開されたケースの一つである[6]。
同空港が管理する資産は80,000点以上に及び、7,000エーカーの敷地に滑走路、照明システム、ネットワーク設備、情報端末、消火設備が分散している。IBM Maximo EAMを中核に据え、Maximo IT(インシデント自動優先順位付け)、Maximo Anywhere(現場サブコントラクター向けモバイル端末)を組み合わせたシステムを構築し、インシデント報告からサービス対応までの時間を1分以内に短縮した。
注目すべきは、同空港がBIM(Building Information Modeling)プロセスをMaximoに統合し、空港全体のデジタルツインを構築している点である。3D BIMモデル内のすべての資産情報がMaximoと連動し、サブコントラクターが3Dモデル上で資産を確認しながら保全作業を実施できる体制を実現した。さらにWatson IoTを活用した予知保全を段階的に導入し、HVAC(空調)システムの最適化ではポンプエネルギー消費の88%削減(年間約82,000ユーロのコスト削減・CO2排出375トン削減)を達成している[6]。
この事例では、資産情報と現場の作業、状態の把握を結び付ける構成が採用されている。デジタルツインやIoTとの連携を検討する際も、自社のどの業務に必要か、既存データをどこまで利用できるかを確認することが出発点となる。
3-2. PDO(Petroleum Development Oman) - 調達プロセスの構造改革
中東オマーンの国営石油企業Petroleum Development Oman(PDO)は、12カ所の拠点にまたがる60,000点以上の保全対象資産をIBM Maximo EAMで統合管理している[7]。
同社の事例で特筆すべきは、EAMの効果が保全業務の効率化にとどまらず、調達・在庫管理という「保全の周辺業務」にまで構造的な変革をもたらした点にある。EAM導入前、年間約192,000品目の調達に25,579件の署名が必要で、調達プロセスは46のステップで構成されていた。クラウドベースのIBM Maximo Application Suiteへの移行により、この調達プロセスを46ステップから14ステップへ集約し、年間約2,300時間(フルタイム従業員1名分相当)の工数削減を達成した。加えて年間約70,000枚の紙の使用を廃止し、完全なペーパーレス化を実現している。
この事例は、保全作業だけでなく、その実施を支える調達・承認の流れも改善対象になり得ることを示している。CMMSかEAMかという名称で調達業務を対象外にせず、既存の購買システムを含めた情報の受け渡しと役割分担を設計する必要がある。
3-3. Network Rail(英国) - 30,000構造物のリスクベース投資最適化
英国の鉄道インフラ管理者Network Railは、20,000マイル(32,000km)の軌道と30,000の橋梁・トンネル・高架橋を管理する世界有数の資産集約型組織である[8]。
同社はCopperleaf Decision Analytics Solutionを導入し、既存の複数のライフサイクルコストモデルを単一のシステムに統合した。これにより、すべての投資案件のコスト・便益・リスク・パフォーマンスを統一的に評価できる体制を構築し、新たな投資シナリオの生成を従来の数週間~数カ月から10分に短縮している[8]。
同社が2025年にEAMソリューションの情報提供依頼(RFI)を発行し、2030年を見据えた次世代EAMプラットフォームの評価を開始していることは、大規模インフラ管理者にとってEAMが一過性のシステム投資ではなく、継続的に進化させるべき経営基盤であることを示している。
3-4. JR東日本 - E235系のCBMによる保全パラダイム転換
日本の鉄道分野でEAMの思想を体現しているのが、JR東日本が山手線E235系で実装した状態基準保全(CBM)である[9]。
2015年に導入されたE235系には、INTEROS(Train Condition Monitoring System)が搭載されており、推進系・ドア・空調・インフラとのインタラクションを常時モニタリングし、膨大な運転ビッグデータを生成する。JR東日本はPARC(Palo Alto Research Center)と連携し、ドアシステムの予知保全CBMを開発、故障種別分類で95%以上の精度を達成した。PARCのMOXI技術は90%以上の精度を低い誤警報率で実現しており、世界最高水準の乗車密度を持つ山手線での実証が完了している。
この取り組みの本質は、従来の「時間基準保全(TBM)=一定周期で部品交換」から「状態基準保全(CBM)=劣化の実態に基づいて最適タイミングで介入」への転換にある。架線設備についても、営業列車の走行データから変位情報を取得し、箇所別の劣化率を特定したうえで修繕タイミングを最適化する体制を構築している。
4. 日本の現在地 - 設備老朽化と保全費用の構造
4-1. 進行する設備の高経年化
日本の製造業における設備老朽化は、すでにデータが明確に示す段階に入っている。
日本機械工業連合会の「生産設備保有期間実態調査」(2018-2019年実施)[10]によれば、導入から10年以上経過した生産設備の割合は62.4%に達しており、更新投資の遅延が常態化している。JIPM(日本プラントメンテナンス協会)の2023年度メンテナンス実態調査[11]でも、保有設備に対する「高経年設備」の割合は50%超と報告されている。
社会インフラについても同様の傾向が顕著である。国土交通省のデータ[12]によれば、道路橋の37%がすでに建設後50年以上を経過しており、2040年にはこの割合が75%に達する。トンネル25%→52%、河川管理施設22%→65%、港湾施設27%→68%と、いずれのインフラ種別でも高経年化が加速する。
帝国データバンクの「2025年度の設備投資に関する企業の意識調査」では、設備投資の予定がある企業のうち、投資内容として「設備の代替」を挙げた企業が60.8%、「既存設備の維持・補修」が30.7%であった。[13] これらは複数回答による企業の割合であり、投資金額の構成比ではない。設備更新を検討する企業にとっては、既存設備の費用や状態を把握し、更新案と比較できる記録が判断材料となる。
4-2. 保全費用の実態と「見えないコスト」
JIPM(日本プラントメンテナンス協会)のメンテナンス実態調査[11]によれば、総保全費の出荷金額に対する比率は2020年の3.0%から2022年に2.7%とわずかな変動幅に留まる一方で、維持更新費の比率は2021年の1.3%から2022年に3.3%へと急増している。この急増は、先送りされてきた更新投資が臨界点に達しつつあることを示唆する。
保全費の内訳構成を見ると、予防保全費用が28.6%で最大であり、計画的保全費用(予防保全+計画修理+予知保全)の合計は57.8%に達する。一方、設備管理・保全の業務量は増加基調にあり、自社従業員の60.2%、外注業者の36.3%が業務量の増加を実感している。とりわけ高経年設備への対応については、増加と減少の差が57.5ポイントと突出しており、老朽化対応の負荷が現場を圧迫している実態が数字に表れている。
国土交通省の将来推計[12]は、この構造的課題の帰結を明確に示している。社会インフラの維持管理・更新費を事後保全で対応した場合、30年間の累計コストは約250兆~280兆円に達するのに対し、予防保全を徹底した場合は約180兆~190兆円と約3割(70-90兆円)の削減が可能となる。事後保全を続けた場合、30年後の年間維持費用は2018年度比で約2.4倍に膨張するのに対し、予防保全では約1.3倍に抑制される。この数十兆円規模の差分こそが、EAMによるライフサイクル最適化の経済的ポテンシャルを端的に示している。
5. EAMの管理範囲を決め、段階的に実装する
5-1. 自社で改善したい判断を一つに絞る
導入時には「情報を一元化する」という目的を、確認できる業務に置き換える。例えば、設備ごとの修繕費を集計したい、部品待ちの理由を把握したい、複数工場の更新候補を同じ基準で比較したい、といった具体化である。
CMMSを導入した組織が必ず特定の成熟度にあるわけではなく、EAMを導入すれば高度な分析へ進めるわけでもない。設備の重要度や故障の影響を踏まえ、必要な保全方式と管理する情報を選ぶ。
5-2. 設備・作業・費用の対応関係を決める
設備台帳では、名称の表記だけでなく、同じ設備を識別するIDと、工場・系統・機器の関係を整理する。次に、そのIDへ点検、故障、修理、使用部品、費用を結び付ける。会計上の資産単位と保全上の機器単位が異なる場合は、対応表と更新担当を決めておく。
過去の全データを最初から移行する必要があるかは、利用目的と保存要件で判断する。まず対象設備と必要な履歴を選び、現場で記録が継続するかを試す。データ移行・現場定着の具体的な手順は、CMMS導入の7ステップへつながる。
5-3. 自社のデータと業務で連携範囲を確認する
製品デモでは、設備の画面を見るだけでなく、一件の不具合を起点に、作業の起票、部品の確認、実績入力、費用の集計までを追う。さらに更新案や予算へどの情報を引き継げるかを確認すると、標準機能と追加設定・外部連携の境界が明確になる。
AIやIoTの利用を検討する場合も、対象の設備データへ正しく結び付くか、分析の根拠を確認できるか、作業や承認へ引き継げるかを確認する。運用を続けるだけで予測精度が自動的に向上するとは限らず、データ品質と業務に合った評価が必要となる。
費用、運用体制、試行導入まで含めた選定の確認項目は、保全管理システム選定ガイドで整理している。
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参考文献
[1] U.S. DOE FEMP, "Operations & Maintenance Best Practices Guide, Release 3.0" — 第4章 CMMSの機能・選定、第5章 保全方式(2010年刊行)
https://www.energy.gov/sites/default/files/2020/04/f74/omguide_complete_w-eo-disclaimer.pdf
[2] ISO, "ISO 55000:2024 Asset management — Vocabulary, overview and principles"
https://www.iso.org/standard/83053.html
[3] U.S. DOE / Hydraulic Institute / Europump, "Pump Life Cycle Costs: A Guide to LCC Analysis for Pumping Systems"
[4] Siemens, "The True Cost of Downtime 2024" (Senseye Predictive Maintenance)
https://blog.siemens.com/2024/07/the-true-cost-of-an-hours-downtime-an-industry-analysis/
[5] Deloitte, "Industry 4.0 and predictive technologies for asset maintenance"
[6] IBM, "Amsterdam Airport Schiphol Case Study" / Hysopt, "A Digital Twin for Schiphol Airport"
https://www.ibm.com/case-studies/amsterdam-airport-schiphol
[7] IBM, "Petroleum Development Oman LLC Case Study"
https://www.ibm.com/case-studies/petroleum-development-oman-maximo-watson
[8] Copperleaf, "Network Rail Case Study" / Microsoft, "Network Rail data-driven future with Azure"
https://www.copperleaf.com/company/our-clients/network-rail/
[9] Global Railway Review, "Condition-Based Maintenance for Japan's Railways" / JR East Technical Review (JRTR No. 67)
https://www.globalrailwayreview.com/article/61524/condition-based-maintenance-japan/
[10] 日本機械工業連合会「生産設備保有期間実態調査」(2018-2019年実施)
https://www.jmf.or.jp/jmf/wp-content/uploads/2024/03/vin-last-report.pdf
[11] JIPM(日本プラントメンテナンス協会)「2023年度メンテナンス実態調査報告書」
https://info-jipm.jp/asset/wp-content/uploads/2024/07/MFFS2023.pdf
[12] 国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/02research/02_01.html
[13] 帝国データバンク「2025年度の設備投資に関する企業の意識調査」(2025年5月)
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20250528-2025capinvest/
