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【カーボン・ニュートラル時代のプラント保全 #1】GX政策と新技術群の全体像

CCU・水素・アンモニア・SAF等のCN関連プラントインフラを俯瞰し、従来の重厚長大プラントとの質的転換(小型分散・事業者多様化・アセット流動性)を整理する。GX推進法・GX-ETSの政策動向と国内外の実証事例を踏まえ、技術的観点と組織的観点の両面からO&M体系構築の必要性を論じる。

2026年3月8日11分で読める
【カーボン・ニュートラル時代のプラント保全 #1】GX政策と新技術群の全体像

GX政策が加速するプラントインフラの構造変化

2023年5月に成立したGX推進法を起点として、日本のカーボンニュートラル政策は具体的な投資フェーズに移行した。GX経済移行債はFY2023〜2025の3年間で累計約3.67兆円が発行され [1]、官民合わせて今後10年で150兆円超の投資が見込まれている [2]。2025年5月にはGX推進法の改正が国会を通過し、FY2026からは年間CO2排出量10万トン以上の企業に対してGX-ETSへの参加が義務化される [3]

この政策的後押しの下、日本国内でもCN関連のプラントインフラが急速に具体化している。2025年4月にはコスモ石油が堺製油所でHEFA方式による国内初のSAF(持続可能な航空燃料)商業生産を開始し、年産3万kl体制を構築した [4]。2026年2月にはINPEXと大阪ガスによる世界最大級のメタネーション実証設備(400 Nm³-CO₂/h)が長岡市で運転を開始し、メタン濃度96%の合成メタンを既存の都市ガスパイプラインに注入することに成功している [5]

こうした動きは日本に限らない。全世界のCCS稼働プロジェクトは2025年時点で77件に達し、前年比54%増という急拡大を見せている [6]。グリーン水素の電解槽設置容量は2024年に2 GWを超え、サウジアラビアのNEOMプロジェクト(2.2 GW)は2025年6月時点で80%の工事進捗に達した [7]。テキサス州のStratos DACハブは年間50万トンのCO₂直接空気回収能力を持ち、世界最大のDAC施設として2025〜2026年に段階的に稼働を開始した [8]

問題は、これらの新しいプラントインフラが「建設される」ことではなく、「建設された後にどう維持管理するか」にある。

CNに関するフィジカルな技術群の全体像

CN関連の技術群を俯瞰するうえで有用なのが、「ケミカル寄り ↔ メカニカル寄り」と「社会実装済 ↔ 研究段階」の2軸で整理するマトリクスである。

ケミカル・プロセス寄りの技術群には、メタネーション、SAF、CO₂回収、DAC(Direct Air Capture)が位置する。これらは化学反応を伴うプロセスであり、触媒劣化、腐食、溶液劣化といったケミカルプラント固有の保全課題を持つ。一方、メカニカル寄りには原子力(PWR/BWR)、風力、太陽光、CCSの貯留・圧入設備が位置し、回転機器、圧力容器、構造物の力学的健全性が主たる管理対象となる。

興味深いのは、水素(ブルー・グリーン)やアンモニア、バイオ燃料といった技術がこの2軸の中間に位置することである。水素は電気分解(メカニカル)と水素化プロセス(ケミカル)の両面を持ち、アンモニアは合成プロセス(ケミカル)と大規模貯蔵・輸送(メカニカル)の双方の保全知見を必要とする。

社会実装の進度で見ると、太陽光・風力・原子力は既に「社会実装済」の領域にあり、CCS・グリーン水素が「実証段階」、水素還元製鉄・核融合が「研究段階」に位置する。CO₂回収・メタネーション・SAF・アンモニアは実証段階から社会実装への移行期にある。ここで重要なのは、実証段階から社会実装に移行する際に、維持管理の課題が質的に変化するという事実である。実証段階では研究者やエンジニアリング会社が設備を「面倒を見る」が、社会実装段階ではオペレーターが日常的に「運転・保全する」体制を構築しなければならない。

この領域を総称して「カーボンニュートラル・エンジニアリング」と呼ぶことができる。プロセス開発だけでなく、維持管理体系(O&M)の構築にまで視野を広げた包括的なエンジニアリング概念である。

従来プラントとの「質的転換」

CNエンジニアリング領域の設備運用は、従来の石油・化学プラントとは複数の次元で質的に異なり、それに応じた保全体制の構築が求められることとなる

  • 規模感/投資額の差異
    従来の石油精製プラントや石油化学コンビナートは1事業所あたり数千億円規模の資産であるのに対し、CN関連プラントは1事業所あたり数千万円〜数十億円規模のものが大半を占める。コスモ石油のSAF設備は既存製油所への併設であり、INPEXのメタネーション設備も既存ガス田の付帯設備として建設されている。独立した新設プラントとしてはさらに小規模な案件も多い。
  • 地理的分散
    従来のプラントは京浜・京葉・中京・瀬戸内・北九州といったコンビナート地区に集積していたが、CN関連設備はバイオマス原料の産地や再生可能エネルギーの適地に立地するため、地域自律分散型になりやすい。ノルウェーのNorthern Lightsプロジェクト(2025年夏に第1期1.5 Mtpa稼働、2028年から第2期5 Mtpa以上に拡張 [9])のようなCO₂輸送・貯留インフラは、排出源と貯留地を結ぶ広域ネットワークとして設計されている。
  • 運営事業者の多様化
    従来のプラントは石油元売り・総合化学メーカーといったプラント運営の知見を十分に蓄積した事業者が運営してきた。一方、CN関連設備の運営事業者には、再生可能エネルギー事業者、農業法人、地方自治体の第三セクター、ベンチャー企業など、必ずしもプラント運転・保全の知見を持たない組織が含まれる。運転条件の理解、腐食劣化メカニズムの把握、法定検査への対応といった専門的知見の移転が大きな課題となる。
  • アセットの流動性
    従来のプラントは1事業者が永年的に運営し、M&Aによる譲渡は例外的であった。CN関連設備では、プロジェクトファイナンスの返済完了後にアセットを売却する、複数事業者がコンソーシアムで共同運営するといったケースが増えると考えられる。設備の運転・保全データを事業者間で引き継げる仕組みが必要になる。

O&M体系構築の2つの柱

CNエンジニアリング領域における維持管理体系(O&M)の構築は、2つの柱で考える必要がある。

技術的観点(Technical Knowledge)

一つ目は、新しいプロセスに固有の技術的知見の体系化である。CO₂回収プロセスにおけるアミン溶液の腐食挙動、水素設備における水素誘起割れ(HIC)、アンモニア設備における応力腐食割れ(SCC)など、各プロセスに特有の劣化メカニズムを理解し、適切な検査手法と管理基準を策定する必要がある。

ただし、この技術的知見は必ずしもゼロから構築する必要はない。石油精製や石油化学の70年以上にわたる運転・保全実績の中で蓄積されてきた腐食劣化データベース、検査手法、材料選定基準の多くは、CN関連プロセスにも流用可能である。アミン溶液による腐食はガス処理プラントのアミン洗浄設備で長年の知見がある。水素環境下の材料劣化はAPI 941(ネルソンカーブ)やAPI 579/ASME FFS-1で体系化されている。問題は、これらの既存知見をCN関連プロセスの特有条件(異なる温度・圧力・濃度域)に適応させることであり、本連載の第2回ではこの技術的観点を詳しく掘り下げる。

組織・運用体制の観点(Organization, Process, Resource)

二つ目は、設備管理の組織体制、技術体系に準じた検査周期・保全手法の管理、そしてヒト・カネ(リソース)の確保である。

前述のとおり、CN関連設備の運営事業者にはプラント保全の知見を持たない組織が含まれる。このような事業者に対して、設備管理体制をどのように構築・移転するかが課題となる。IEAのCCUS Cost Networkワークショップ(2025年)では、O&Mコスト削減の最大の潜在性はAI・IoTを活用した予知保全とデジタル化にあると報告されており [10]、ロボティクス、ドローン、デジタルツイン、AR/VRの活用が具体的に議論されている。これらのデジタル技術は、保全知見の不足を補完する手段としても有望である。

また、アセットの流動性が高まる環境においては、ISO 55001等の標準規格に準拠したアセットマネジメント体系と記録が、CN関連設備の管理においても重要な基盤となる。設備データを事業者間で引き継ぐためのデータ標準化、クラウド型のCMMS(設備管理システム)の導入は、技術面と組織面の両方を支えるインフラとなり得る。

本連載の第3回では、この組織的観点を詳述する。

カーボンニュートラルの実現は、プラントを「建てる」ことではなく「動かし続ける」ことで達成される。新しいプロセスの腐食劣化を理解し、分散型インフラに適した保全体制を構築すること——その具体的な方法論が、次回以降のテーマである。


参考文献

[1] 財務省「クライメート・トランジション・ボンド」

https://www.mof.go.jp/jgbs/topics/JapanClimateTransitionBonds/index.html

[2] 経済産業省 資源エネルギー庁「GX政策」

https://www.enecho.meti.go.jp/en/category/special/article/detail_214.html

[3] Climate Bonds Initiative "Turning Point: Japan's Green Transformation"

https://www.climatebonds.net/news-events/blog/turning-point-japans-green-transformation

[4] コスモ石油 堺製油所SAFプレスリリース(2025年3月7日)

https://www.cosmo-energy.co.jp/en/information/press/2025/250307-01.html

[5] INPEX メタネーション実証プレスリリース(2026年2月24日)

https://www.inpex.com/english/news/upload/20260224.pdf

[6] Global CCS Institute "Global Status of CCS 2025"

https://www.globalccsinstitute.com/global-status-of-ccs/

[7] IEA "Global Hydrogen Review 2025 Executive Summary"

https://www.iea.org/reports/global-hydrogen-review-2025/executive-summary

[8] IEA "Direct Air Capture — Energy System"

https://www.iea.org/energy-system/carbon-capture-utilisation-and-storage/direct-air-capture

[9] TotalEnergies "Northern Lights Project"

https://totalenergies.com/company/projects/carbon-capture-and-storage/northern-lights-norway

[10] IEAGHG "CCS Cost Network 2025 Workshop Proceedings"

https://publications.ieaghg.org/technicalreports/2025-TR03%20Proceedings%20CCS%20Cost%20Network%202025.pdf

[11] Ammonia Energy Association "JERA concludes successful co-firing trial at Hekinan"

https://ammoniaenergy.org/articles/jera-concludes-successful-co-firing-trial-at-hekinan/


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